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ビオキッチンメンバー紹介vol.1 飯野種苗 飯野 亜紀子さん

二足のわらじならぬ、五足くらいのわらじを履きつつも
ひょうひょうとやってのける飯野さん。
屋号から種や苗に関することが主だと想像されますが、
頼まれると断れず(?)携わる活動がたくさんあります。
飯野さんが種をとったり苗を育てたりすることになったきっかけや、
ビオ市で飲食に関わるようになったきっかけを伺いました。

●畑をはじめたきっかけは?

身分証がわりに狩猟免許をとって津久井に畑を借りたら、
獣が出ないから畑ばっかりすることになりました。

2008年ごろかな、当時よく遊んでいた友人に
「これからは狩猟免許ですよ」とそそのかされ、
普通免許も持っていなかったので、
身分証の代わりにできるかもと、ネタとして免許をとりにいきました。
横浜で狩猟免許の試験を受けたとき、
へんなおっさんに「おねーちゃん、猟をやるなら
津久井の猟友会の副会長だから、津久井に来るといいよ」と声をかけられたのです。
その時はそのままスルーしたのですが、
狩猟免許を勧めた友人の先輩に当たる千松信也さんが書いた
「ぼくは猟師になった」という本を読んで、
猟をやるなら、地元の猟友会とつながればよいのだなと、思いました。
津久井の猟友会に問い合わせたところ、
狩猟免許の試験のときに会ったおっさんを紹介してもらい、
翌日にはイノシシの解体に立ち合わせてもらうことに。
その場で、「畑もやる?」といわれて、
畑を貸してもらえることになりました。
正直、畑の方がやりたかったし、借りた畑は獣は全然出ないから、
猟はしないで畑ばっかりやることになったのです。

● 種から苗を作りはじめたのですか?

秋葉原にあった勤務先のベランダで育苗をはじめて
種から苗をつなげられるよう、畑に踏み込み温床も作りました。

津久井で畑を始めて、街から来た自然農やりたい人のお決まりコースな感じで、
「たねの森」の種をいろいろ買って蒔きはじめました。
ちょうど2月に畑を借りられたので、
ナス科なんかの素人が種からやるには難しい種も買って。
横浜の自宅には育苗スペースがないし、ほとんど家にいなかったので、
秋葉原にあった勤務先のベランダで育苗をはじめました。
東京は暖かくて、意外と苗が育ったのです。
翌シーズンは、既に津久井に引っ越していたのですが、
苗を畑に運ぶのが大変だったので、家の庭先で育苗することにしたら、
寒くて全然育たない。
これじゃあナスとかピーマンが食べたくなる季節に、
買わないと食べられないし、
植えても種採れる前に霜が降りちゃう。
でも、種から苗を育てて次につなげないと意味がないということで、
翌シーズンは畑にへっぽこハウスと踏み込み温床を作ったわけです。
ホームセンターの苗よりはかなり遅いけど、
まあ、なんとか5~6月中には植えられる苗ができるようになりました。

● 苗を他の人に分けるようになったきっかけは?

踏み込み温床と育苗ハウスに労力をかけ、
多めに種をまいてあまった苗を友人に分けはじめました。

どれくらいちゃんと育つかわからなくて、多めに種をまくから苗があまり、
相模湖・藤野にできはじめていた友人に苗を分けはじめました。
それにしても踏み込み温床と育苗ハウスを作る労力は、
家庭菜園用の苗を作るには大掛かり過ぎて、
ふつーの人はやらない。
自分は作ってしまったので、
持続可能な暮らしがしたくて田舎に引っ越してきたような友人には、
ホームセンターの苗よりも自家採種の苗の方がよかろうと、
翌年からは人に分ける分も見込んで種をまくようになりました。
最初は、地元の人のように、素人が作ったあまり苗だからただであげる、
という感じだったと思います。
育苗数が増えると、かかる資材も時間もぐぐっと倍増してしまい、
このままではムリだなと、苗を販売するようになりました。

● 土作りにもこだわっていますか?

今では精米所で集めてきた米ぬかや自分の雑穀の調整時に出たものでまかない、
油粕の代わりに稲わらを使って、資材を使わずに発熱させることができました。

最初は、種まき用の土、育苗用の土を買っていたのですが、
次にピートモスとかパーライト、腐葉土、くん炭などを
買ってブレンドするようになったのです。
牧馬に移転してからは、
カブトムシの幼虫がこなしてくれた踏み込み温床跡の腐葉土と
山の土のブレンドで育苗できるようになりました。
踏み込み温床の資材も、当初は米ぬか、油粕を買って入れていたのですが、
今シーズンは初めて、米ぬかは精米所で集めてきたものや、
自分の雑穀の調整時に出たもので賄い、
油粕の代わりに稲わらを使うことにより、
資材を買わずに発熱させることができました。

●畑の近くに移住したのですね?

晴れた日にパソコンに向かうのが耐えられず、
畑にいる時間を増やしたくなって、退社して請負で仕事をすることになりました。

津久井の畑は横浜の自宅から電車とバスを乗り継いで片道2時間半、
毎週土日に通うのがしんどいから津久井に引っ越しました。
畑までは近くなったけど、職場までは2時間半かかるようになったのです。
東日本大震災があったときに、交通機関のマヒで、
片道4時間もかかって食べ物飲み物も不安な東京に通うのはありえない!と
自宅勤務にさせてもらいました
自宅勤務していると、晴れた日にパソコンに向かうのが耐えられず、
まずは週休3日でよいですか?、となり、
さらにはもっと畑にいる時間を増やしたくなり、
退社して請負で仕事をすることになりました。

●畑だけでなく、醤油作りや雑穀栽培もはじめたのですね?

おっかない山道の向こうの葉っぱくさいイメージだった藤野の人とつながりができ、醤油づくりや雑穀栽培をはじめました。

津久井に引っ越してから、通っていた講座の遠足で藤野に行きました。
当時は藤野・相模湖に友人が全くいなかったのですが、
相模湖で醤油を手作りしている人たちがいると聞いて、
ちーむゴエモンの活動に参加させてもらうようになりました。
よろづ屋に入ったのは2011年ごろだったかな?
当初、おっかない山道の向こうの葉っぱくさい町というイメージだった
藤野の人たちともだんだんつながりができてきました。
雑穀栽培をはじめたのもそのころで、
たまたま雑穀栽培に使ってよいという土地の情報があり、
友人たちと数人ではじめました。
丈夫そうなイメージだから、蒔けばできるだろうと思っていたのですが、
初心者によくある、草と見分けがつかない、
間引き・土寄せが十分できない、鳥にやられる、
そして、食べられるようにする工程がわからない、
という散々な結果でした。
懲りずにその後も栽培を続けたのですが、
宮本農園さんと有志のグループで一緒に栽培するようになってから、
だんだんコツもわかり、道具も揃え、
今では自分で食べる分+ビオ市で料理を出す量程度以上の
収穫をできるようになりました。

●種取り、固定種にこだわっているのですか?

F1がいけないということではなく、
種をとりたいから固定種を使っているだけです。

最初に読んだ本が川口由一さんの「自然農・栽培の手引き」で、
たねとりの仕方が書いてあったので、
ふつーに種はとるものだと思ってとり始めました。
採れるのだったら採っておこうと。
たねとりがこんなに大変とは思わなかったのですが。
たねとりするために主に固定種や地方の在来種を扱っています。
この辺りの在来の種がもっとあればうれしいのですが、
あまり聞かないです。
秋山の雛鶴漬け用の長カブとかのらぼう、
津久井在来大豆くらいでしょうか?
地元の人で種を採りつづけている人もほとんど知らないのですが、
今一番近所のおばあちゃんが種とりする人で、
縁の下にずらっと並んだ薬ビンにいろんな種が入っている。
私と同じくらいのノリで、採れるものなのだからとる、
くらいの感じなのです。
種シェアとかちゃんと仕組みを作れたらよいとは思うのですが、
まだ余力がないので、
そんな感じでとりあえず自分のための種を
細々と採りつづけられたらいいな、と思います。

●ビオ市では当初から飲食に関わっていますね?

苗作りをして八百屋もやりながら、
種から手作りした野菜を使ったご飯屋さんは、他にはいないと思います。

ビオ市の立ち上げ前に、地元の安心でおいしい野菜を
地元の人が買いやすいようにしたい、という想いで、
篠原の里で週一回やっている里カフェでの八百屋活動をはじめていました。
それがきっかけだったのか、
つっちーがビオ市立ち上げメンバーとして声をかけてくれたのです。
ほんとはイベントとか関わるのが苦手だったのですが、
地元の安心でおいしい野菜を地元の人が買いやすいようにする
という目的のためには、ファーマーズマーケットが
もっともよい手段だと思えたので、それじゃあ協力しようと。
でも、企画・運営に関わるのも苦手だし、
どう関わればよいか、と思いついたのが、
出店野菜の試食屋でした。
初回は12月で、どの農家さんも人参を持っていたので、
利き人参の屋台をやりました。次は大根だったかな。
最初は、自分は飲食を仕事としているわけではないし、
ビオ市を盛り上げる役であればいいと思って、
あまり本格的に料理を出そうとしていなかったので、そんな感じで。
3回目くらいで飲食出店の人が他にいなくて、
急遽、50人分くらい作れないかと、
前の晩につっちーから電話がきたのです。
真冬だったので野菜もあまり無くて、
なんとか出したのが朝粥と粥の友シリーズでした。
自分で育てた米と、自分で育てた野菜の漬物をいろいろ、
自家製梅干し、出店者の手作り味噌を使ったねぎ味噌、
自家製醤油の搾りかすを使ったふりかけ、
わらびやきゅうりの塩蔵品を塩抜きして。
端境期ながら、塩と油以外全て地元産という
豊かなプレートになり、大好評でした。
でも、ビオキッチンチームができるまで、
1プレート分を一人で用意するのがかなり大変で、
毎度大遅刻して、行くのが憂鬱になったりしました。
初年度は苗屋シーズンには前日に荷台いっぱいの苗を搬入して、
当日は料理を出してとか、よくやっていたな、と思います。
それでも続けられたのは、自分なら、野菜市で食べる朝ごはんは
こういうのがいいな、と思っていたからです。
手の込んだことはせず、食材をストレートに、
手作りの調味料で調理しただけの盛り合わせで、
待ってくれていたお客さんや、
野菜を提供してくれた農家さんに美味しいと喜んでもらえるのを
励みに続けていました。
それでも、時間と体力の限界を感じていたので、
ビオキッチンチームで分担できるようになって、
各々のメンバーの個性が楽しめるようになり、本当によかったです。

●ビオ市の魅力はなんですか?

ビオ市ができて顔の見える安心な野菜が普通に買えるようになり、
農家同士がつながり、お互いに補い合う関係になりました。

津久井地域では、有機農とか自然栽培とか自然農とか、
いわゆる慣行農業ではないやり方での農をやっている人がおもいのほかたくさんいます。
そういうやり方を受け入れてくれる土壌があるんだな、
というのがだんだんわかってきていたのですが、
ビオ市が始まる前は、そうした自然や人に負荷をかけないやり方の
農家さんの野菜を地元の人が買える場がほとんどありませんでした。
宅配をしてくださる方のキャパシティも限られているし、
自分で取りに行く式のお野菜セット企画があったり、
地元スーパーに卸す人がいても、あまり長続きしなかったり。
単発のイベントで販売されることがあっても、
普段の生活で普通に買う方法がない。
藤野のコミュニティ内でも、農産物の地域内流通について、
どうにかならないか、というのは長年の未解決課題だったわけです。
名の通った人、地元で根強い人気の人、応援したい駆け出しの人、
いろいろな農家さんが一同に会してお野菜を並べる。
そんな夢のような市が最初に開かれたとき、
こんなに長続きするとは思ってなかったのですが。
いろいろな農家さんが自分のペースでやっておられるおかげで、
想像以上に地域に受け入れられ、長続きしていますね。
ビオ市ができたおかげで出会えた農家さんもいます。
農家さんにとっても、野菜が欲しい人にとっても、
魅力的な場であるということだと思います。
さらに魅力的な農家さんと地域住民を呼び込む求心力になるとよいと思います。

●飯野さんの野菜は、ビオ市で買えますか?

種とりや育苗しながらだと、売るほどの野菜はないのですが、
今はビオキッチンで素材として提供するのがちょうどいいです。

種とりや苗屋をしていて、あちこちで畑をやっているので、
野菜をたくさん作っているように思われて、
「飯野ちゃん野菜ないの?」とかいわれますが、
内心、「生産農家じゃないんだよ!」と逆ギレすることがよくあります。
基本的に、ふつー、種とりはするものだ、と勘違いして、
手を広げすぎてしまった素人の家庭菜園ですから。
敢えて品種数は数えませんが、
かなりの数の品種のたねとりをするためには、
ひとつの品種の数は多くは植えられない。
交雑を避けるための配置に苦労して、
毎度植え遅れる品種があります。
人の分の苗も育苗して、かなりの時間が食われてしまいますし。
だいたい、使ってよいことになっている畑の大部分がまだ開墾中だったり、
何度も獣害で整地しなおしたりして、軌道に乗っていません。
そんな効率の悪いことは、
生産農家として野菜を安定供給しようとすると、
なかなかやっていられないでしょうから、
私のような中途半端な立ち位置のものがやるのがよいだろうと思いますが。
自分の作った野菜を他の人にも食べてもらいたいという気持ちはあるし、
日中のほとんどを畑で過ごしているので、
農産物も収入源のひとつにしないとな、とは思っているのですが、
今は出荷できるほどの収量ありません。
ビオキッチンの食材として使ってもらって、
ちょっとずつみなさんに口にしていただけるのはうれしいです。

種取り、苗づくり、八百屋、ご飯やさんをしながら
雑穀を栽培し、醤油づくりに関わり、
雨の日にはパソコンで仕事をし、保育園の調理もこなす飯野さん。
飯野さんの野菜は、見た目は適度にしまっているけど、
食べてみると柔らかく、ぎゅっと味が凝縮しています。
この野菜と一緒で、たくさんの活動をしながらどれも手を抜かず、
適度にゆるゆると心地よいバランスを保っている飯野さん。
屋号を考えなおしているという飯野さんの、
今後の活動が楽しみです。

次回は、飯野さんもメンバーの一員である
ビオキッチンについてご紹介します。

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